「サーマルで勝負しろ!」

MNTFCスケールグライダーミーティング
「サーマルで勝負しろ!」

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太郎右衛門橋付近から見た富士山
橋からはもっとよく見える


 朝早く太郎右衛門橋を渡った。空気が澄んでいたせいか、富士山が良く見えた。MNTFCの飛行場は、この上流側に車で数分の広い農耕地帯にある。MNTFCスケールグライダーミーティングの20秒モーターラン(MR)滞空競技に出るために来たのだが、もちろんスケール機が見れるというのも楽しみだ。

 持ってきたモーターグライダーは2機、スープラアバロンだ。

スープラ  翼長    3.4メートル
       飛行重量 2010g
       翼面荷重 30g/d㎡
      
アバロン  翼長    3.7メートル
       飛行重量 1750g
       翼面荷重 20g/d㎡

 スープラは私のF5J用本命機で、少し重めだがいろいろな状況で飛ばせると思っている。アバロンは軽量機で、微風では競争力がかなり高いだろう。Erwin-XL Ultralightは、軽く薄翼なので微風でも風が吹いても性能を発揮する強敵だ。ただアバロンのほうが厚翼なので、揚力が高く沈下率では勝っているのではないか。

 穏やかに晴れたグライダー日和だ。たまに風が強く吹いたと思っても、実際に風速計で測ると5m/sもない。前夜からどっちの機体を飛ばすかずいぶん考えた。朝になってフライオフのつもりでスープラを飛ばそうと決めた。20秒での獲得高度は、事前にチューンしたので230mにアップした。アバロンF5J仕様なので20秒では170mしか上がらない。
 開会式、RCエアワールドの記念写真の撮影もおわって、でかい曳航機がでかいグライダーをどんどん引っ張っていく。イベントの進行係はプロの司会者だ。ラジコン歴20年で航空機にも詳しい。時折上空を飛ぶホンダ航空の実機を解説し、正面を離陸するRCグライダーもトレースする。尊敬するべきは大型RC曳航機のパイロットだ。たぶん、ほぼずっと飛ばしっぱなし。ランウェイ真上を盛んに飛び交う電動のRCスケールグライダーは、多いときは7機あった。その中を何十回も離着陸するのだ。

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笑い出してしまうほどデカいスケール機
      

 ひばりが鳴くほどのいい天気だった。スープラアバロンを一回づつ練習飛行した。どちらもよく飛び、降りて来るまで飛ばしてだいたい10分。またどっちがいいかで悩んでいるところにペジテの狼から携帯メールがきた。「高度がすべてじゃない! サーマルで点にして皆さんを驚かせてください」と書いてあった。つまりスープラの獲得高度に頼らず、「サーマルで勝負しろ!」ということだと理解した。それで私はアバロンを飛ばすことにした。
 12時30分に20秒MR滞空開始。20機以上がいっせいに舞い上がる。風は南に変わっていた。高度170mから滑空に入り、西へ機首を向けた。すぐにサーマルに捕まった。ほぼ真上だったと思うが、じわじわ高度を取り続け、何分もしないうちに点になった。私は初対面の助手の方に「頂きました!」と調子に乗って話しかけた。

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「頂きました!」


 誰でも一番になることが好きだ思う。だけど実は、私は一番になったことが一度もない。生まれてから、多分ずっと。で、この時はいよいよ自分も一番になれるかも知れないと思った。それくらいのサーマルだった。助手の方は、もう私の機体が見えないと言った。このまま機体から目を離さずに普通に飛ばしていれば、簡単に一番がとれそうだった。風が弱いので機体は少しづつしか北へ流れて行かないので、真上を見上げる首が疲れた。見やすい位置に流れて行ったころは、旋回の向きによっては機体は見えなくなった。見えてきたときは背面になっているような時もあった。ただ、旋回をしていれば、またすぐに見えてくることには確信があった。


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中條 延幸さんのエクスプローラ3800E(3位)
2400WのF5B用モーターを1200Wで回す
3セルだったら100アンペア以上流れる計算だ


 どれくらい時間がたったか分からないが、だんだん高度が落ちてきた。「次のサーマルは斜め前方にある」と本で読んだことがある。それで南東へゆっくり向かった。高度を下げつつ飛んだ。助手の方とプロの司会者の解説が状況把握に役立つ。あと何機残っているか、サーマルに乗っている機体はあるか。それでも他の機体のサーマルを追いかける劣勢になる前に、またサーマルに乗ったと思った。高度は200m以下。アバロンの場合、下降気流に捕まることを考えるとまったく油断できない。はっきりとは上昇しないが、サーマルと信じて旋回を続ける。司会者によるとこの時、中條機が私のサーマルを狙って真下に来た。エクスプローラは数十メートル下だが、緩い旋回をしながら、(信じられないことだが)らせん状に高度を上げてきた。今朝は有名な中條さんと話ができたのですごく嬉しかったのだが、ここまでオソロシイ人だとは思わなかった。この後のことはあまり覚えていない。


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南 浩一さんのアバロン(4位)
フラップサーボの位置が光っているのは、ストロボ付だから


 南さんのアバロンが着陸したのを覚えている。高度ログを見ると私のアバロンはかなり高度をとっている時だったはずなので、たぶん司会者の解説でわかったのだと思う。私はまた北上空にある点になったアバロンを凝視していたが、そろそろ限界と判断してスピードモードで南に向かった。高度はほとんど落ちなかったと思う。かなりの高度にあるはずだが、司会者解説によると他の機体もまだまだ高いようだ。かなり長い間、スピードモードで飛んでいた。ここらへん一帯が大きなサーマルに包まれていたのだ。おかげで南風の中をずいぶん進んで、南側の見やすい位置を飛ぶことができた。


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自慢のログ 今度 FXJ Forum に投稿して、マルコ・ガーラをビックリさせる予定

 疲れたとも思わなかったし、かったるいから降りちゃおうとも思わなかった。ただ長い時間飛ばしているので、いろいろなことを考えた。他の機体、早くあきらめろーということを強く思った。ペジテの狼のメールが支えになった。そして、残り3機になってくると会場に流れる音楽と解説にも気合いが入ってきた。「ダースベイダーのテーマ」、ワーグナーの「ワルキューレの騎行」地獄の黙示録の例の音楽)には私も気合いを入れた。ただ、解説者としては無名の新人中年(私)について語るべきことは何もなく、「本気の中條さん」と、(いつの間にかチームJRになってしまった)Erwin-XL Ultralightの秋山さんについては語るべきことがあまりに多かった。中條さんが刀折れ矢尽き着陸した後は特に面白かった。秋山さんの助手は、当初はF3J選手権者 長野佳祐、それに加えチームJRのF3Kチャンプ 朝妻豊彦。そこへ最後に登場したのはサッカー監督のようなコート姿の前F5B選手権者 菅野辰雄。これを見事に楽しく解説するのだが、もう一方の私は名前すら呼んでもらえず、あげくについた呼び名が「プライペーター」だった。かたや「チームJR」かたや「プライペーター」! じきに名前とクラブを聞きに来てくれた時、「市川滋です。・・・元・関宿滑空班! ステッペンヴォルフ!」と少し大きな声で言ってしまった。「・・・」と戸惑いがあるのは伝統あるグライダークラブの一員であるのに私の戦績が芳しくないから。


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A点拡大図
 
 最後は8分ほどかけて600mの高度を失ってしまった。秋山機も、もがいていたようだ。私はあきらめていなかった。高度35メートルあたりで浮きがいいように思ったので、慎重に旋回した。舵を丁寧に丁寧に打った。春のF5Jプレ大会を思い出していたのだ。ヘロヘロの状況のフライトで、もう着陸体制に入ろうと思った時、クラブの先輩が「まだまだ行けるよ!ていねいに!!」と言った。それで少し丁寧に粘り、そのラウンドは1000点取れたのだった。今回も10メートルほど高度をとれた、これは印象に残っていてなんか上手くなった気分だ。 
 秋山さんとの決着は発航から3500秒経過した時についた。同じサーマルに乗ろうとした結果、空中衝突してしまったのだ。私は10メートルほど落下し、立ち直り元の高度に戻ったが、秋山機は主翼翼端に接触したためスパイラルに陥り、そのまま不時着した。


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準優勝 秋山 豊さんとErwin-XL Ultralight










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優勝は私、ウレシイウレシイ(写真はちょっと前の)